投資家ジェシー・リバモアが儲けた方法
投資の世界には、教科書通りの理論ではなく、自身の天性の才能と、市場の心理を読み解く直感力だけで、巨額の富を築き上げた伝説のトレーダーがいます。それが、20世紀初頭のウォール街で「相場のキング」と称され、数々の大相場を動かしたジェシー・リバモアです。彼は、何度も巨万の富を築き、そして何度もそれを失うという、波乱万丈の人生を送りましたが、彼の残した相場に対する洞察は、今も多くのトレーダーに影響を与え続けています。
今回は、ジェシー・リバモアがどのような人物で、彼が実践してきた「トレンドフォロー」や「市場心理の読み解き」といった手法が、なぜ注目を集めてきたのかを、分かりやすく解説していきます。
ジェシー・リバモアの足跡:少年時代の数字の才能からウォール街の伝説へ
ジェシー・リバモアは、1877年にアメリカのマサチューセッツ州で生まれました。貧しい農家の出身で、正規の教育はほとんど受けていませんでしたが、幼い頃から数字に対する並外れた才能を示していました。14歳の時、彼は家計を助けるために、証券会社で株価を黒板に書き出す「銘柄表示係」の仕事に就きます。
この仕事の中で、彼は株価の動きにある一定のパターンがあることに気づき、自分なりの予測を立てて、いわゆる「バケツショップ」(実際の株取引は行わず、顧客の賭けを受ける賭博場のような場所)で少額の資金で取引を始めます。彼は、その天性の直感力で、わずかな資金をあっという間に増やしていきました。この頃、彼は「ボーイ・プランジャー(若き投機家)」と呼ばれ、その才能はウォール街の注目を集め始めます。
1900年、23歳になったリバモアはニューヨークへと拠点を移し、本格的にウォール街でのキャリアをスタートさせます。彼は、1907年の恐慌では、市場の大暴落を予測して空売りを仕掛け、巨額の利益を得て一躍有名になりました。そして、彼の名を歴史に刻んだ最大の成功は、1929年の世界恐慌(ウォール街大暴落)でした。多くの投資家が破産する中、彼は再び市場の崩壊を予測し、株式の空売りで1億ドル以上という、当時としては天文学的な利益を上げました。これは、現在の価値に換算すると数十億ドルに相当すると言われています。
彼の人生は、何度も無一文になり、そしてそのたびに巨額の富を築き上げるという、まさに「破産と復活」の繰り返しでした。彼の波乱万丈の人生と投資哲学は、エドウィン・ルフェーブルが書いた名著『ある投機家の告白』(Reminiscences of a Stock Operator)に描かれ、今もなお多くの投資家に読み継がれています。しかし、彼の人生は悲劇的な結末を迎え、1940年に自ら命を絶ちました。
なぜ「相場のキング」と呼ばれるのか?
ジェシー・リバモアが「相場のキング」と呼ばれる理由は、彼が独自の視点で市場のトレンドと投資家心理を読み解き、大胆な取引で巨額の利益を上げたからです。彼は、経済学の学位を持っていたわけではなく、あくまで実践を通じて市場を学んでいきました。
彼の投資スタイルは、以下の点を特徴としていました。
- 「トレンドフォロー」: 彼は、株価が上昇トレンドにある銘柄を買い、下降トレンドにある銘柄を売るという「トレンドフォロー」の概念を重視しました。彼にとって、市場の動きこそが最も重要な情報であり、トレンドに逆らうことはしませんでした。
- 「損切り」の徹底: 彼は、自分の予測が外れて損失が出始めた場合には、迷うことなく素早くポジションを解消する「損切り」を徹底しました。彼は「相場で生き残るためには、損失を小さく保つことが最も重要だ」と考えていました。
- 「利益の最大化」: 一度トレンドを捉え、利益が出始めたポジションは、株価がさらに上昇する限り持ち続け、利益を最大限に伸ばすことを目指しました。彼は、「利益が出ているポジションを早期に売却するのは間違いだ」と語っています。
- 「市場心理の読み解き」: 彼は、市場の動きの背景にある投資家たちの「恐怖」や「貪欲」といった感情が、価格にどう影響するかを深く理解していました。特に、市場が過度に楽観的になったり、過度に悲観的になったりする時に、その心理の歪みを利用して取引を行いました。
- 「買い時と売り時」の認識: 彼は、常に市場に資金を投じ続けるのではなく、大きなトレンドが発生するチャンスが来るまで、じっと待つことを重視しました。そして、いざチャンスが来たら、迷わず全力を投じる大胆さを持っていました。
リバモア流「投機」の核心
ジェシー・リバモアの投資哲学は、**「市場の動きを信じ、自分のルールを厳格に守り、そして何よりも自己を律する」**という原則に集約されます。
彼の投資手法は、具体的に以下のような特徴があります。
- 「ピラミッディング(買い増し)戦略」: 彼は、最初に少額の資金を投じ、自分の予測が正しいと市場が示し始めたら、段階的に買い増しをしていく「ピラミッディング」と呼ばれる手法を好みました。これにより、リスクを管理しながら、大きなトレンドに乗って利益を拡大させることができました。
- 「大衆の心理に逆らう」: 彼は、多くの人が興奮して株を買っている時に、その熱狂の終わりを予測して売り、逆に多くの人が絶望して株を売っている時に、その底打ちを予測して買うという、大衆心理の逆を行く「逆張り」の要素も持ち合わせていました。
- 「チャートの読み解き」: 彼は、現代のテクニカル分析の基礎となるような、株価のチャートパターンを重視しました。特定のパターンが出現した時に、それが市場の転換点となる可能性を読み解きました。
- 「情報の非対称性」: 彼の時代は、現在のように情報が瞬時に世界中に伝わる時代ではありませんでした。彼は、独自の情報網や洞察力を駆使して、他の投資家よりも早く、市場の重要な変化を察知しようとしました。
- 「自身の感情との闘い」: リバモアは、投資で最も難しいのは、自分自身の感情(恐怖や貪欲)との闘いであると語っています。彼は、感情に流されず、自身の決めたルールに従って行動することの重要性を繰り返し強調しました。
彼の成功と失敗は、彼がどれだけ市場の真理に迫ろうと努力し、そしてどれだけ人間が感情に支配されやすいかを物語っています。彼の残した言葉の数々は、現代のトレーダーにとっても、普遍的な教訓となっています。
私たちもジェシー・リバモアから学べること
ジェシー・リバモアの投資手法は、非常にハイリスク・ハイリターンであり、彼の人生の結末を考えると、安易に真似できるものではありません。しかし、彼の哲学から私たちも多くの重要な教訓を学ぶことができます。
- 「市場のトレンドを尊重する」: 自分の願望や思い込みではなく、実際に市場がどのような動きをしているのかを注意深く観察し、その流れに逆らわないこと。
- 「損切り」の重要性: 自分の判断が間違っていたと気づいたら、損失が小さいうちに潔く方向転換する勇気を持つこと。これは投資だけでなく、人生のあらゆる決断に応用できる教訓です。
- 「利益を伸ばす」ことの重要性: 一度成功したことについては、途中で満足せず、最大限の結果が出るまで粘り強く努力し続けること。
- 「自分自身の感情をコントロールする」: 恐怖や欲望といった感情が、判断を曇らせることを知り、冷静に自己を律する訓練をすること。
- 「待つことの重要性」: 常に取引する必要はない。本当にチャンスが来るまで辛抱強く待ち、勝負すべき時に集中して行動すること。
ジェシー・リバモアは、その天才的な才能と、壮絶な人生を通じて、投機と投資の奥深さ、そして人間の心理が市場に与える影響を私たちに教えてくれました。彼の物語は、知性と規律、そして何よりも「自己との闘い」が、いかに投資の世界で重要であるかを示しています。彼の哲学を学ぶことで、私たちも、市場の波を乗りこなし、賢明な判断を下すヒントを見つけられるはずです。
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