投資家ジョエル・グリーンブラットが儲けた方法
投資の世界には、まるで複雑なパズルを解くかのように、シンプルながらも非常に効果的な方法を見つけ出し、大きな成功を収めた人物がいます。それが、ヘッジファンドマネージャーであり、大学教授、そしてベストセラー作家でもあるジョエル・グリーンブラットです。彼は、専門知識がない人でも実践できる「魔法の公式(Magic Formula)」と呼ばれる投資法で、多くの個人投資家から支持を集めています。
今回は、ジョエル・グリーンブラットがどのような人物で、彼が提唱する「魔法の公式」がなぜこれほどまでに注目を集めるのかを、分かりやすく解説していきます。
ジョエル・グリーンブラットの足跡:法曹界からウォール街の「魔法使い」へ
ジョエル・グリーンブラットは、1957年にアメリカのニューヨークで生まれました。ペンシルベニア大学のウォートン・スクールを卒業後、スタンフォード大学で法学の学位も取得しますが、彼の情熱は金融の世界にありました。
1985年、彼は自身のヘッジファンド「ゴッサム・キャピタル」を設立します。このファンドは、彼が考案した独自の投資戦略を用いて、設立から1990年代後半にファンドを閉鎖するまで、**年間平均で約40%**という驚異的なリターンを叩き出しました。これは、当時のS&P500指数(アメリカの主要な株価指数)のリターンを大きく上回るもので、彼をウォール街の注目人物へと押し上げました。
しかし、彼が本当に有名になったのは、2005年に出版された彼の著書『株で勝つ ダメな僕でも稼げた!魔法の公式』(原題:The Little Book That Beats the Market)によってです。この本の中で彼は、専門知識がなくても、たった二つの簡単な指標を使うだけで、市場平均を上回るリターンを目指せるという画期的な投資法「魔法の公式」を公開しました。
彼は、この「魔法の公式」を広めるために、あえて専門用語を避け、高校生でも理解できるような平易な言葉で投資の仕組みを解説しました。現在も彼は、自身のファンド運営に加え、コロンビア大学ビジネススクールで教鞭をとり、多くの学生に投資の原理を教えています。
なぜ「魔法の公式」と呼ばれるのか?
ジョエル・グリーンブラットが提唱する「魔法の公式」が「魔法」と呼ばれる理由は、その驚くほどのシンプルさにもかかわらず、過去のデータで高いパフォーマンスを示してきたからです。この公式は、基本的に以下の二つの指標を使います。
- 「収益率」: その企業が、投入した資本に対してどれだけ効率的に利益を上げているかを示す指標です。簡単に言えば、「儲けるのが上手な会社」を見つけるためのものです。彼は「EBIT/EV(企業価値に対する税引き前・利払い前利益)」という指標を推奨しました。
- EBIT(Earnings Before Interest and Taxes): 利払い前・税引き前利益。会社の本来の稼ぐ力を示す。
- EV(Enterprise Value): 企業価値。時価総額に有利子負債を足し、現預金を引いたもの。会社全体の買収に必要な金額。 この指標が高いほど、その企業は少ないお金で多くの利益を生み出している、つまり「稼ぐのが上手」だと判断できます。
- 「益回り(割安度)」: その企業の株価が、その利益に対してどれだけ割安に評価されているかを示す指標です。簡単に言えば、「お買い得な会社」を見つけるためのものです。彼は「EBIT/EV」をそのまま利用します。
- この指標が高いほど、その企業の株は利益に対して割安だと判断できます。
「魔法の公式」のやり方は、非常にシンプルです。
- 儲けるのが上手な会社のリストを作る。
- お買い得な会社のリストを作る。
- それぞれのリストで順位をつけ、両方の順位を合計する。
- 合計順位が低い(つまり、儲けるのが上手で、なおかつお買い得な)会社に投資する。
彼は、この「魔法の公式」は、ベンジャミン・グレアムが提唱した「バリュー投資」(割安な株を買う)と、フィリップ・フィッシャーが提唱した「クオリティ投資」(質の良い企業に投資する)という、投資の二大原則を組み合わせたものであると説明しました。つまり、「良質な会社を割安で買う」という、シンプルだが非常に強力なアイデアに基づいているのです。
グリーンブラット流「魔法の公式」の核心
ジョエル・グリーンブラットの投資哲学は、**「シンプルさ」「長期的な視点」「市場の非効率性」**という3つの柱に支えられています。
彼の投資手法は、具体的に以下のような特徴があります。
- 「誰もが使えるシンプルさ」: 彼は、高度な金融知識や複雑な分析ツールがなくても、誰もが実践できる投資法を考案しました。これにより、個人投資家がプロの投資家と同じ土俵で戦える可能性を示しました。
- 「市場の感情に逆らう」: 彼は、市場が特定の企業に対して過度に悲観的になったり、逆に過度に楽観的になったりする「感情のブレ」によって、株価がその企業の本当の価値から乖離すると考えました。この「非効率性」を利用して、割安な良質企業を見つけ出すことを得意とします。
- 「長期的な視点」: 「魔法の公式」は、短期的な利益を追求するものではありません。彼は、この公式で選んだ銘柄を、少なくとも1年以上は保有し続けることを推奨しています。企業の価値が市場に認識されるまでには時間がかかるため、忍耐力が重要だと考えました。
- 「分散投資」の推奨: 彼は、個別の企業に投資するリスクを減らすため、公式で上位にランキングされた多くの銘柄に分散して投資することを推奨しています。これにより、特定の銘柄がうまくいかなくても、全体としてのリターンを安定させることができます。
- 「過去のデータに基づいた確信」: 彼は、この「魔法の公式」が過去の市場データにおいて、一貫して市場平均を上回るリターンを上げてきたことを示しました。これにより、投資家は統計的な裏付けに基づいて、自信を持って投資に取り組むことができると説いています。
彼の成功は、複雑な世界をシンプルに捉え、本質的な価値を見抜く洞察力と、それを多くの人に分かりやすく伝える能力の結晶と言えるでしょう。
私たちもジョエル・グリーンブラットから学べること
ジョエル・グリーンブラットの「魔法の公式」は、個人投資家にとって非常に実践しやすい投資法です。彼の哲学から私たちも多くの重要な教訓を学ぶことができます。
- 「シンプルに考える」ことの重要性: 投資に限らず、複雑に見える問題でも、その本質を捉えてシンプルに考えることで、より良い解決策が見つかることがあります。
- 「良質で割安なもの」を探す習慣: 何かを購入する際も、それが本当に良い品質で、なおかつお買い得なのかを考える視点を持つこと。これは投資だけでなく、日々の消費行動にも応用できます。
- 「感情に流されない」冷静さ: 市場が大きく動いても、周りの意見や感情に惑わされず、自分の決めたルールに基づいて、冷静に判断すること。
- 「長期的な視点」を持つこと: 短期的な結果にとらわれず、物事の長期的な視点を持つことで、より大きな成果を得られる可能性があることを理解する。
- 「分散投資」でリスクを抑える: 一つのものに全財産を賭けるのではなく、様々なものに少しずつ投資することで、全体としてのリスクを抑える賢さ。
ジョエル・グリーンブラットは、誰もが投資の恩恵を受けられるように、その知恵を惜しみなく共有してくれた「ウォール街の教育者」とも言える存在です。彼の「魔法の公式」は、投資の世界への第一歩を踏み出す多くの人々にとって、希望と自信を与えてくれるでしょう。彼の哲学を学ぶことで、私たちも、賢く、そして安心して投資に取り組むヒントを見つけられるはずです。
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