成長株の父:フィリップ・フィッシャーとは
投資の世界には、さまざまなアプローチで成功を収めた偉大な投資家たちがいます。その中でも、「成長株投資の父」として知られるのが、フィリップ・フィッシャーです。彼の投資哲学は、ウォーレン・バフェットのようなバリュー投資家にも影響を与え、今もなお多くの投資家にとって重要な指針となっています。
今回は、フィリップ・フィッシャーがどのような人物で、彼が提唱した「成長株投資」の考え方がなぜ特別なのかを、わかりやすく解説していきます。
フィリップ・フィッシャーの足跡:独自の視点で優良企業を探す
フィリップ・フィッシャーは、1907年にアメリカで生まれました。スタンフォード大学で経済学を学び、1931年に金融業界でのキャリアをスタートさせました。彼が自身の投資会社を設立したのは、世界恐慌の真っただ中である1931年のことです。この厳しい時代にキャリアを始めたことは、彼に市場の短期的な変動に惑わされない、長期的な視点と独自の分析力を培わせるきっかけとなったのかもしれません。
フィッシャーは、投資の分野において、それまでの主流であった「安い株を見つけて買う」というバリュー投資とは異なるアプローチを追求しました。彼が注目したのは、**「将来性のある、優れた企業」**に投資し、その企業の成長とともに自身も利益を得るという考え方です。これは後に「成長株投資」と呼ばれるようになります。
彼は、単に数字上の安さだけでなく、企業の質、経営陣、将来の成長可能性などを徹底的に調査し、その洞察力は「業界のゴシップ」を聞き集めることから得られるとさえ語りました。彼の著書『株式投資で普通でない利益を得る方法』(原題:Common Stocks and Uncommon Profits)は、彼の投資哲学をまとめたもので、投資の世界における古典として今も読み継がれています。
フィッシャーは、約70年間のキャリアを通じて、彼の投資哲学を貫き、大きな成功を収めました。彼の投資家としての最後の仕事は、1999年に91歳で引退するまで務めた、彼の会社の社長でした。
フィッシャーが提唱した「成長株投資」の真髄
フィッシャーの投資哲学は、企業の「質」と「成長性」を重視する点にあります。彼は、短期間で株を売買して利益を得るのではなく、優れた企業を長期的に保有することで、その企業の成長の恩恵を最大限に享受すべきだと考えました。
彼の投資手法の核心をなすのが、「15のポイント」と呼ばれる、投資対象となる企業を評価するための独自の基準です。これらは、単なる財務数値だけでなく、企業の競争力、経営体制、研究開発への取り組み、顧客との関係性など、多岐にわたる質的な要素を含んでいます。
ここでは、その中でも特に重要なポイントをいくつかご紹介しましょう。
- 少なくとも数年間は売上高が大幅に増加する潜在性があること: 将来にわたって持続的に成長できるビジネスを持っているかを重視しました。
- 経営陣は、たとえ一時的に現在の利益が減っても、長期的な利益につながるような新製品や新しいプロセスの開発を決意していること: 常に革新を追求し、将来のために投資できる経営陣を評価しました。
- 企業の収益力に寄与する、どのくらいの研究開発努力がなされているか: 研究開発に力を入れ、未来の収益源を確保している企業を探しました。
- 秀でた販売組織があるか: 優れた製品を持っていても、それを市場に届け、顧客に買ってもらうための強力な販売力があるかを重視しました。
- 利益率が良いこと: 高い利益率を維持できる企業は、競争優位性があると考えました。
- 人事関係が良いこと: 従業員が満足して働ける環境があり、優秀な人材が定着しているかを重視しました。
- 経営陣の清廉潔白さ: 経営者が誠実で、株主の利益を最優先に考えているかを深く見極めました。
- 詳細な企業調査(スカッティング): 彼は、企業を深く理解するために、その企業の顧客、供給業者、競合他社、元従業員などに直接話を聞くことを重視しました。これは「スカッティング」と呼ばれ、財務諸表だけでは見えてこない、企業の真の姿を探るためのユニークな手法でした。
フィッシャーは、これらのポイントを厳しくチェックし、合格した少数の「優れた成長企業」にのみ投資を行いました。そして、一度投資を決めたら、その企業がその価値を失わない限り、何十年でも持ち続けることを原則としました。彼は「株を売る理由がなければ売らない」という考え方を貫きました。
フィッシャーから学べること
フィリップ・フィッシャーの投資哲学は、私たちに多くの重要な教訓を与えてくれます。
- 「安い株」よりも「良い会社」に注目する: 短期的な株価の変動に惑わされず、その企業のビジネスが本当に優れているのか、将来性があるのかを見極めることの重要性。
- 「長期保有」の力: 優れた企業は、時間の経過とともにその価値を増大させます。短期的な利益を追い求めるのではなく、長期的な視点で企業の成長を見守る忍耐力を持つことが大切です。
- 「徹底的な調査」の重要性: 表面的な情報だけでなく、企業を深く理解するための努力を惜しまないこと。財務諸表だけでなく、その会社の評判や、業界内での立ち位置など、あらゆる情報を収集する姿勢が求められます。
- 「経営者の質」を見極める: 企業を成長させるのは、結局のところ「人」です。経営者が誠実で、先見の明があり、株主の利益を考えているかを評価することは非常に重要です。
フィリップ・フィッシャーは、複雑な分析ツールに頼ることなく、人間の知的好奇心と地道な調査によって、優れた企業を発掘し続けた稀有な投資家です。彼の教えは、単なる株の売買にとどまらず、私たちが社会や企業をより深く理解するための「知の探求」の姿勢を教えてくれます。彼の哲学を学ぶことで、あなたも投資の世界がもっと面白く、奥深いものに感じられるはずです。
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